ストレートネックとは?
徒手療法家である筆者が分かりやすく解説します。
こんにちは、私は大阪で開業している徒手療法家です。
近年はスマートフォンの普及もあり、首に症状を訴える方が増えてきています。
「ストレートネック」という言葉も、以前よりはみなさんの知るところとなりつつありますが、ネット等では誤った情報があふれています。
このサイトでは実際にストレートネックの患者様に触ってきた徒手療法家としての目線で、ストレートネックについて解説してみようと思います。
加えてストレートネックの方が陥りやすい症状等にも言及したいと思います。
解剖学
まずみなさんには簡単な解剖学を理解して頂きたいと思います。
背骨は湾曲している
人間の背骨は24個の椎骨という骨がつながって出来ています。
上から順番に頚椎は7個、胸椎は12個、腰椎は5個あります。
簡単に言うと頚椎は前に、胸椎は後ろに、そして腰椎は再び前にカーブを描きます。
二足歩行でこの地球に生きている私たちは、重力のストレスからは逃れられまん。
しかしこの背骨の湾曲は、重力の縦方向のストレスを軽減する働きをしてくれます。
このS字形の湾曲、頚椎で言うところの前への湾曲がなく、横から見た時にまっすぐな頚椎の事をストレートネック、あるいはミリタリーネックと言います。
実はストレートネックの方は首だけでなく、背骨全体がストレートな傾向があります。
背骨の形
ここでは具体的に背骨の形を比較してみましょう。
通常の湾曲を持った背骨
S字形の湾曲がある背骨は重力のストレスを軽減させるだけでなく、適応力にも優れています。
例えば湾曲のどこかの部分が後ろへ出てくれば、その上や下にある部分は前に出ることでバランスよく負荷を分散しようとしてくれます。
具体例を挙げれば、女性で猫背の方は頚椎や腰椎の前カーブが強くなる事でバランスを保持しているケースがよく見られます。
とは言えこの状態が長引けば、首や腰に何らかの不調が現れるのは時間の問題ではあります。
ストレートな背骨
ストレートネックの方は基本的にS字形の湾曲自体が少なく、横から見た時にまっすぐな背骨の形をしています。
上記の湾曲がある背骨の例と比べると、ストレートな背骨の方が姿勢が悪くなると、背中の真ん中から二つに折れたような形になってしまいます。
つまり背骨のある部分の問題を他の部分でバランス良く補う、という事が、湾曲がある場合と比べると難しい構造になっています。
あなたはストレートネック?
ご自分ではよく分からないという方のために、特徴を挙げてみましょう。
ストレートネックの方に見られる特徴
なかなかご自身では背骨や首の形、湾曲などは分からない事でしょう。
そこでここではストレートネックの方に見られがちな特徴を挙げてみたいと思います。
首が長く見える
ストレートネックの方は一見して首が長く見える印象があります。
特に女性の場合は触診しなくても、一目見てストレートネックだと分かる事もあります。
姿勢が良いはずなのに肩や首がつらい
日常での姿勢や座り方にも気を付けている、周りからは姿勢が悪いと言われる事はない、
にも関わらず頭痛や肩こりなどを慢性的に感じているのであれば、あなたはストレートネックかもしれません。
肩甲骨の内側
ストレートネックの方は肩甲骨の内側の上の方や首の付け根、首と後頭部のつなぎ目などにつらさ、しんどさを
訴える傾向があります。他にも首の横や前側にある筋肉にも硬さを訴える事もあります。
上を向くのが苦手
ストレートネックの方は、例えば歯を磨いて口をゆすぐ時などに、上を向くのが苦手な方が少なくありません。
上を向くという動きに可動域制限があったり、違和感や痛みを感じたりする事もあります。
ストレートネックの原因
遺伝的要因
背骨の形にはかなり遺伝的要素があります。つまりストレートネックは持って生まれたその人の頚椎の形の問題であるケースが多いです。
とは言え、何らかの不具合や症状がある場合は、先天的な問題だけではなく後天的な要素も加わっていることでしょう。
頚椎前部の筋群の緊張
理論的には首の前部にある筋群や筋膜が硬く短くなると、頚椎の湾曲は減少する可能性はあります。
しかしネットの情報でたまに見かけるような、「スマホのやり過ぎでストレートネックになる」などという事はありません。
しかし成長期においては、スマホを長時間ひどい姿勢でいじり続けるような悪習慣があれば、影響を受ける可能性はあるでしょう。
むち打ち損傷
事故などによるむち打ち損傷の結果、ストレートネックになる事はあります。
これはむち打ちによって頚椎の前側にある組織がダメージを受けて、その反応として過緊張の状態に陥ってしまうからです。
姿勢
例えば日常的に仕事などで下向きで作業しているような方や、過度にあごを引いた真っ直ぐな姿勢を維持しなければならないような環境にいる方などは、もともとは頚椎の湾曲があった場合でも、長い時間を経るとストレートネックになってくる事もあります。
臨床的な特徴
硬い軸椎
Axis spine
頚椎には上下左右に関節がありますので、リラックスした状態で関節に外力を加えると、ジョイントプレイと呼ばれる他動的な可動域があります。
第二頚椎を軸椎と言いますが、ストレートネックの方はこの部位の関節の健全なジョイントプレイが失われている傾向があります。
硬い上部胸椎
Upper thoracic spine
上部胸椎はちょうど首と背中のつなぎ目辺りにあります。
このエリアにはもともと構造的にストレスがかかりがちですが、ストレートネックの方は特に、第一、第二胸椎の関節の健全な動きが失われている傾向があります。
硬い後頭下筋群
Suboccipital muscle
後頭部周辺には、後頭下筋群と呼ばれる筋群が付いていますが、この筋群の過緊張は頭痛やめまいの原因ともなります。
ストレートネックの方はこの筋群には慢性的にストレスがかかっているケースが多いです。.
硬い胸鎖乳骨筋
Sternocleidomastoid
胸鎖乳骨筋は耳の後ろから首の前側に向かってついている筋肉です。
この筋肉は頚椎そのもののコンデイィションにも大きな影響力を持っていますが、ストレートネックの方は過緊張の状態に陥っているケースが多いです。
硬い斜角筋
Scalene
斜角筋は三つありますが、首の骨の横から肋骨に向かって付いています。
斜角筋が硬くなると頚椎の関節の健全な可動域を制限しますが、ストレートネックの方は過緊張に陥る傾向があります。
硬い筋膜
Fascia
ストレートネックの方は、ややアゴを引いたような頭の角度になっている傾向がありますが、この環境により首や胸の筋膜は短く、硬くなってきます。
そして硬くなった筋膜はさらにストレートネックの形を補強してしまいます。
ストレートネックによるリスク
ここではストレートネックの方が陥りやすい症状や病態をいくつか挙げてみましょう。
肩こり、首こり
ストレートネックの方は頚椎の関節の動きが悪くなり、首周りの筋肉や筋膜が硬くなる傾向があります。
例えば首から肋骨に付いている斜角筋が硬くなれば、自覚としては肩や首がこった、と感じる事でしょう。
頭痛
上部頚椎のねじれや歪み、関節のコンディション不良はシビアな頭痛の原因となります。
そしてストレートネックの方は、このエリアに問題を抱えているケースが多く見られます。
加えて上記の「臨床的な特徴」でも挙げた後頭下筋群の過緊張もダイレクトに頭痛の原因となります。
めまい
ストレートネックの方が陥りがちな上部頚椎のコンディション不良は、頭痛だけではなく、めまいの原因ともなります。
このエリアには人間の平衡感覚にも関わっている、固有受容器というセンサーがたくさん分布しているからです。
関節や軟部組織が健全な状態でなくなると、そこにある固有受容器の機能も低下してしまいます。
このような環境が、原因不明のめまいを引き起こす原因となります。
手のしびれ
「臨床的な特徴」でストレートネックの方は斜角筋が硬くなる傾向があると記しましたが、この筋肉の下を腕や手を支配する神経が通ります。
さらに鎖骨のすぐ下、腕の付け根辺りに小胸筋という筋肉がありますが、この下にも神経の通り道があります。
やはりこのエリアもストレートネックの方は硬くなりがちです。
これらの筋群が硬くなると、下にある神経に物理的ストレスをあたえます。
この環境は手のしびれを引き起こす原因となります。
眼精疲労
ストレートネックの方は日常の頭の角度が、アゴを引いて少しうつむいた状態になっているケースがしばしば見られます。
これにより目線は日常的に、やや上を向くようなポジションになってしまいます。
眼球的には常に上を向いているような状態ですから、当然ながら目はより疲れやすくなってしまいます。
ストレートネックは治療できる?
先天的なストレートネックの場合
私自身は、先天的な要素が大きいストレートネックの場合は、外から力を加えて湾曲を作るのではなく「ストレートネックだけど快適」な状態を目指して施術をいたします。
かなり強い外力を加えてでも湾曲を作る事にこだわる術者もいますが、頚椎の湾曲には椎間板の形が関わっています。
椎間板にストレスをあたえるような施術をして湾曲を作るのであれば、まさに本末転倒と言えます。
とは言え多くの場合、先天的な要素が大きいストレートネックの方であっても、後天的な要素も重ねて持っているものです。
この部分を取り去ることで、ストレートの度合いは改善することは可能です。
後天的なストレートネックの場合
後天的なストレートネックの場合は、頚椎やその椎間板の形ではなく、主な原因が筋バランスや姿勢パターンにあります。
この場合は比較的短い時間で頚椎の前カーブを取り戻すことが可能でしょう。
しかしむち打ち損傷の場合は、ダメージの強さや放置した時間の長さによっては、回復までに時間がかかる事もあります。
お勧めのストレッチ
ここではストレートネックの方にお勧めのストレッチをご紹介します。
上部頚椎のストレッチ
ストレートネックの方は、上部頚椎の関節の健全な可動域が失われている傾向があります。頚椎に限らず、関節の状態が悪くなると、周りの筋肉や筋膜も硬くなってくるものです。
逆に言えば関節を良い状態に保てば、周りの筋肉や筋膜も良い状態を保ちやすくなってきます。
まずタオルをご用意ください。この方法は正確にはモビリゼーションと言いますが、頚椎の関節にアプローチして、首周り全体に良い影響を与えることが出来ます。
ストレートネックの方だけでなく、片頭痛をお持ちの方にも有効です。
タオルの縁を髪の生え際に当てて下さい。
第二頚椎に接触
そしてタオルを持った両手の角度は水平よりもやや高めに持ち上げて下さい。
タオルは首にフィットした状態でしっかりと接触せせたまま、手前に軽く引きます。これがスタートのポジションになります。
手前に引きながら上を向く
そして図2のように、タオルをグッと手前に引きしぼりながら、ゆっくりと上を向いていきます。
完全に上を向いたら、タオルを引く力をゆるめながら図1のスタートの位置に戻してください。
イメージとしては第二頚椎を手前に動かしながら上を向く感覚です。一度に10回程でいいでしょう。
これを一日に3回はしてほしいところです。タオルの接触場所が定かでない場合は上下にずらして何度か繰り返して頂ければ良いと思います。
ストレートネックのあなたは、このエリアの関節の動きは悪くなっている可能性が高いです。最初は軽めの力から始めましょう。
いきなり強い力ですると痛めてしまう可能性がありますのでご注意ください。
軟部組織のリリース
ストレートネックの方は首の前側や横側にある筋肉や筋膜が硬くなる傾向があります。
首を痛めやすいストレートネックの方は、このエリアの筋群のストレッチによって頚椎の痛めてしまう事がありますが、この方法は安全に軟部組織を緩めることが出来ます。
まず上の図のように首の左側にアプローチする場合は、左側に軽く首をかしげて下さい。
そしてのど仏を避けて、親指を除く四本の指を首の中に差し込んでいきます。オエッとなったら場所を間違っています。のど仏の横から、耳の方向へすべらせるイメージです。
いきなり強い力で差し込もうとしてはいけません。最初は軽い力から始めて、徐々に深く差し込んでいきましょう。
くれぐれも血管を強く圧迫しないように気を付けて下さい。
最後に
ストレートネックは「悪」ではない
あえて最後に、先天的な要素が大きいストレートネックの方々に言いたいのですが、ストレートネック自体が
「悪」という訳ではありません。
生まれながらのストレートネックであっても快適に暮らしている方はたくさんいらっしゃいます。
もしあなたの頚椎がストレートで、ご自身が何らかの症状でお困りだとしても「ストレートネックである事」は原因やリスクのひとつにすぎません。
たしかに通常の湾曲がある頚椎よりは、首周りへの負担が高くなる傾向はりますが、あなたはその分ご自身の体を大切に扱う習慣を持てば良いのです。
そうすれば、長い目で見れば「きれいなS字形の湾曲を持って生まれたが、体に気を遣わずに生きてきた人」よりも健康に年をとる事も可能です。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
あなたが健康で良い人生を歩まれますように。
井上省二
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